PKCとは
PKCとは、発作性運動誘発性舞踏アテトーゼという長い名前の疾患です(私は当事者ですが、なかなか覚えられません)。英語ではParoxysmal Kinesigenic Choreoathetosisというそうです。
運動開始するときやストレスなどに誘発される一時的な発作で、手足や体が制御不能に動き回るという不思議な症状が起こります。30歳を超えると自然治癒していくともいわれています。
人によって違うと思いますが、私自身は寝不足や緊張に関連して発症することが多いです。緊張に関しては私のHSP気質も関連しているかもしれません。HSP(Highly Sensitive Person)についてはまた後日お話します。
私は生後まもなく発症
私が最初にPKCのような症状を起こしたのは、生まれて間もない頃でした。母乳を飲んでは嘔吐して、痙攣のような症状が出てから眠る、というのを繰り返していたといいます。
母は私を病院に連れて行き検査をしましたが、結果は特に異常なしということでした。しかし症状が続くので、今度は鍼灸院に行きました。そこで鍼灸師さんから母乳の飲ませ方について注意されたそうです。
母は私を産んだ助産院で「赤ちゃんが寝ていても、母乳を飲ませる時間になったら起こして飲ませないと大きく育たない」と言われ、それに従っていたといいます。しかし鍼灸師さんには「赤ちゃんが寝てるのに無理やり起こすなんてありえない」といわれたのです。
それからも鍼灸院に通院し、寝ているときに母乳を与えるのをやめたら次第に症状は治まっていきました。結局その痙攣のような症状がPKCによるものだったのか、母乳の与え方が関係していたのかといったことは今も分かりません。
ちなみに、鍼灸師さんには「思春期になったらまた症状が出るよ」と言われていたそうです。そして結局、思春期より早く症状は戻ってきました。
小学生になってPKCを再発
小学生になり、はっきりといつかは覚えていませんが、低学年のときにかけっこや50m走、鬼ごっこなどで走り出すときに体が変な感覚になって走りにくいと感じていました。そのときは症状がまだ軽度で、すぐ忘れてしまうくらいのものでした。
しかしある日、ちょうど母と出かけようと車に向かって走っていこうとしたときにその症状が出たので、とっさにうずくまってしまいました。そして、「どうしたの?」と尋ねる母に「走るときに左半身が思うように動かなくなるときがある」と打ち明けました。すると驚くことに、母が「私も昔同じ症状が出ていた。そして26歳のときに治った」と言うではありませんか。
母もPKC当事者だった
母は若い頃同じような症状があり、病院で検査したものの脳波などに異常は見つかりませんでした。病院で処方された薬を飲むと症状は治まったといいます。しかしある日、薬を飲み忘れてしまい、人混みの駅のホームで過去一番ひどい症状が出たそうです。周りの人に見られてとても恥ずかしいの同時に、以前より症状が悪化していたことに怖くなったといいます。
そして母は薬を飲まなくなりました。それからは断食道場に行ったり、玄米菜食をしたりと、体質を改善するために色々試したそうです。それでも症状は治りませんでしたが、あるとき一念発起して1週間のあいだ食事と運動を徹底したら、その後すぐに完治したといいます。
そのため母は「強い想いで治せる!」と考えており、PKCを話題に出すといつもメンタルの話になります。 私を想ってアドバイスしてくれているのは分かるし、自分の病気を治すために生活習慣を整えて試行錯誤したのはすごいと思います。 しかし、母の精神論はときにストレスに感じることもありました。当時は母が唯一の同じ症状を経験してきた身近な存在であったので、それでも理解し合えないものなんだなと感じて悲しかったです。
そういうこともあり、何が原因で母の症状が完治したかは分からないというのが現時点での私の考えです。食事療法もよい方向に働いたのかもしれません。あるいは、母にとって26歳が自然治癒のタイミングだったのかもしれません。
とにかく、私にもPKCの症状を抑える薬を飲ませたくなかった母は、私が小学生になって症状を再発して以来、赤ちゃんのときにお世話になった鍼灸院にもう一度通院させるようになりました。
PKCと学生時代
小学生のあいだ、鍼灸院に週一回のペースで通いましたが症状が治まることはありませんでした。そして小学校の高学年くらいから症状が出るのが左半身になったり右半身になったりと変化し始め、その後右半身だけの発症へと完全に移行しました。鍼灸師さんに「左から右に移るのは悪化している証拠だ」と言われ怖くなりましたが、どうしようもありません。中学校に入ると部活動が始まり、時間がとれなくなったので鍼灸院への通院をやめました。
学校生活のなかでは急に動かないといけないときや緊張したときなどに発症し、とても苦痛でした。一方で、周囲にはほとんど気付かれてなかったのではないかなと思います。自分でもどうすれば症状が出にくいか、どのようにかばうとよいか、どうすれば周りに気付かれにくいか、などが少しずつ分かってきました。しかし、感覚としては十代のあいだは少しずつ症状が悪化していったように思います。
学校ではみんなでそろって行動しなければならない場面が多いので、今までに一番苦労したのは学生時代かなと思います。ちなみに学生時代のアルバイトは、最初は座ってできる仕事などを選んでいました。しかし、おしゃれなレストランのホールスタッフに憧れて応募したことがありました。そのときは悪い予感が的中し、初日に料理をもって階段を上るときに症状が出て動けなくなってしまいました。横で指導してくださっていたマネージャーはとても驚いた様子でしたが、親身になって事情を聞いてくださいました。黙っていたことを謝罪すると、別の職種を探すように優しく諭され「また食事しにおいで」とおっしゃいました。本当に自分にがっかりした苦い思い出です。
”PKC”という病名にたどりつく
母は自分や私の症状のことを「攣る(つる)」、私が赤ちゃんのときに起こしていた症状を「ひきつけ」と呼んでいました。子供の頃にもそういった言葉を何度かインターネットで検索しましたが、自分の症状とぴったり重なるものが見当たらず、この得体も知れない病気の正体を明らかにすることは諦めていました。
しかしある日、神経内科のお医者さんとお話する機会がありました。どういういきさつか忘れましたが、話の流れで何となく「こういった症状があるんです」とお話すると「それはPKCだね」と即答されされました。その方はすぐにスマホでPKCを検索して詳しい症状が書かれたページを見せてくださり、読んでみるとほぼ全てにおいて自分にあてはまることが記載されていました。
雷に打たれたような衝撃と自分の謎の症状に名前があったことへの安堵感からか、家に帰ると自然と涙が出てきました。それからPKCについて調べていくうちに自分と同じような悩みをもつ方や、もっと強い症状の出ている方もいるということを知りました。薬で症状を抑えるか、自然治癒するのを待つしかないのなら、うまく付き合っていこうとも思えました。
妊娠中に無理をしたら遺伝しやすい?
PKCの原因は分かりません。母も似たような症状があったということで遺伝している可能性はあります。今さらどうしようもないことですが、母はときおり「あなたを妊娠しているときの自分の行動がいけなかったんだ」と言うことがあります。
私は母にとって2人目にできた子供です。すでに一度妊娠・出産を経験していることもあり「2番目も大丈夫だろうと甘くみていた」と言います。体がしんどいなと思いながらも出産直前まで仕事をこなし、夜更かしすることも多く、無理をしていたそうです。
それが原因となったかどうかは分かりません。忙しく働き、無理をしながら産んでくれた母も大変だったことでしょう。ちなみに母が私を妊娠するときにはすでにPKCの症状はありませんでした。PKCの遺伝と妊娠中の身体的・精神的ストレスが直接関係しているかは分かりませんが、妊娠中に無理をせずリラックスして過ごせるに越したことはないだろうと思います。
気長にPKCと付き合う
ここまで思い出しながらいろいろと書き連ねましたが、私はPKCの薬物治療を受けたことがないのであまり参考にならないかもしれません。30歳を過ぎた今でもPKCの症状がありますが、薬物治療をしてこなかったことをよかったとも悪かったとも思いません。みなさんにもマネしてほしいとか薬物治療を否定する気持ちはまったくないので、ご理解いただけるとうれしいです。
ちなみに私が抗てんかん薬を飲まないのは個人的な理由もあります。学生の頃、まだPKCを知りませんでしたがネットで似て症状調べて、こういった疾患の治療には抗てんかん薬を使うのだろうと解釈しました。抗てんかん薬について調べていくうちに、副作用に「音が半音下がって聴こえる」と書いてあるのです。私は学生の頃に吹奏楽部に所属していたのですが、音が取れなかったら部活を辞めないといけないだろうと思い、それは避けたいと思いました。社会人になった今も音楽が好きで、音が半音下がって聴こえると辛いです。
もしかしたら私はその副作用が出ないかもしれないし、薬の種類によっても副作用は違うのかもしれません。また、薬を飲んでPKCの症状のことを恐れず全力で走り回れた方が思い悩まずにすんだのかもしれません。しかしこれが私が選んだPKCとの関わり方でした。
また、これは完全に個人的な判断のため自分自身でも正解が分からないのですが、私はPKCの症状が出るのが怖くて車の運転免許を持っていません。しかし、専門医にPKC患者の自動車運転について尋ねたこと はなく、PKCが運転の支障になるのかどうかさえ分かりません。ネットでPKCのことを調べると予測変換に「PKC 車」と出てくるので、ほかにも気になっている人がいるのだろうと思います。もしご存知の方や当事者の方で運転について教えていただける方がいらっしゃったらコメントいただけるとうれしいです。
私はなんとなく説明にしくいこの病気のことを隠しながらここまで来ました。 最後になりましたが、 PKCというあまり知られていない病気について当事者でない人たちにも知ってもらい、もっと理解が広がることを願うばかりです。
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